mapleの自由帳

数学と音楽に生きています。

続・OMCとどう向き合うべきか

 前編はこちらです.こちらは専らコンテスタントとしての在り方について述べたものでしたが,今回は主にwriter・testerに関するものです.改めて申し上げますが,これはあくまで僕個人としての見解であり,公式に発せられた声明ではありません
fuma-maple.hatenablog.com

 さて,なぜ改めて筆を執るに至ったかと言えば,それはもちろんのこと……

結局,Contribution制度とは何だったのか

 OMC050よりtesterの制度を導入して以来,事は順調に進んでいるようでしたが,OMC130で久方振りに致命的な不備が出てunratedになってしまいました.多くは語りませんがその後の余波も含め,一連の出来事によって現行のtester制度の問題点が浮き彫りとなったことは明らかでした.
 それは一言でまとめるならば,testerをやることに客観的な動機がまったくないということです.正直なところ,ほとんど「やりがい搾取」の状態に陥ってしまっています.しかし,これ自体は初めから分かっていたことです.運営としても完全に目を瞑ってきた(瞑らざるを得なかった)と言わざるを得ません(その点,わざわざ精力的にtesterをやっていただいている方には心から頭が上がりません.いつも本当にありがとうございます).そのため,客観的にtesterをやる動機を生まねばならない,とにかく制度に何らかの変更を加えねばならないという意思が強く出てきました.その結果,色々と考えて生まれたのがあれです.
 多かれ少なかれ,サービスの在り方を根幹から変える改革となり得ることはもちろん自覚していました.実際,元からtesterをされていた皆さんであれば,僕が策定までに過去一番の慎重を期していたことはご存知でしょう.そして,提案からおよそ1か月後,一旦は正式な導入まで至りました.

それならば,なぜやめたのか

 testerの作業というのは,しっかりやろうと思うと断じて楽なものではないことは忘れてはなりません.それゆえ,ボランティアとしてやっていただくにあたっては,各人にそれに見合うだけの十分なモチベーションが必要です.それが実質的に強制されるようになると,「ボランティア」ではなく純粋な「業務」としての側面を強めてしまうことは確かです.testerというのは現状「やっていただいている」ものなわけですが,それを「やらせている」ものに変化させうるものだったということです.
 実際のところは,数値設定は慎重に行い,実質的な負担はかなり低く設定してはいました.とはいえ,根本的な制度設計じたいに危険が孕んでいました.別の表現をすれば,「滅私的に献身することが是である」という思想を埋め込んでユーザーに押し付けることになりかねない,と言ってしまうこともできるでしょうか.
 正直なところ,もし現行の制度に何らかの方法で(金銭の力を借りずに)手を加えるとすれば,これが局所最適解に近いものだったとは思います.しかしながら,透明な水に一滴のインクを垂らせば,それはもはや透明たりえません.制度に手を加えること自体に拘泥しすぎてしまったという感は強いです.

やはり行き着く先は有償化なのか

 現在のOMCは競プロで喩えるならば,AtCoderとyukicoderを足して2で割ったような体制で運営されています.良く言えば「良いとこどり」なわけですが,当然ながら裏を返せば双方の欠点も併せ持っています.言ってしまえば「中途半端」なのです.もしwriterやtesterを有償にして正式な雇用関係のもとで行えば,現在のように(レーティングで一定の制限は付けているとはいえ)幅広く参画者を集めていくことはできなくなるでしょう.
 testerはまだしも,writerの扱いは特に一筋縄には行きません.少人数で完全な雇用関係をとっているAtCoderで作問者になるのは至難の業であるために,yukicoderでの作問は(コンテストに出るのは100人前後であるものの)人気を集めていると言えますよね.我々は皆さんの問題を「利用させていただいている」立場であるため,本来ならばwriterにも然るべき対価が生じるべきなのですが,writerに関しては,純粋に「自分の作問を多くの人に解いてもらえる」という点においてユーザー側に明確なメリットが存在することも確かです.ほとんどの作問はなかなか相手にしてもらえません.中高の文化祭企画ですらほとんどはいまいち手ごたえを感じられていないと思われる中で(灘校数研を例にとっても,入試模試はまだしも,和田杯は......),Twitterで掲載などしたところでのれんに腕押しです.その点,writerに関しては,有償化が我々の歩むべき道であるとは言い難いような気がします.単純に「高レートが問題を作って,低レートをテストする」という構造が強い形で埋め込まれうるのも,褒められたことではありません(現実問題として一定の制約が必要であることはどうしても理解していただきたいですが).
 しかし,繰り返しにはなりますが,testerをやることには客観的には本当に明確なメリットが無いことに留意せねばなりません.これはwriterにも増して,本来ならば明確に対価が支払われるべき行為なのです.このことは(特に中高生の)皆さん,くれぐれも気を付けてください.もちろんのこと,自分の中で明瞭にモチベーションが確立できていて,完全に納得が出来ているのならば,我々としては深謝するばかりです.しかし,とにかく,なんとなくtesterをやっているのが偉いだろうといった程度の気分で,貴重な自分の時間をいたずらに消費しないようにしてください.

とはいえ,最低限お願いしたいこと

  • writerになったコンテストに関しては,可能な限りテストしていただきたいです.
  • 我々は問題を送っていただいている立場であることに間違いないですが,とはいえ作問提出にあたっては,一人の人間が時間と労力を使って確認を行うことを認識した執筆をお願いします.その状態で本当にコンテストページに載せられるのか,出す前に冷静に見返してみてください(そのような状態で提出されるものの方が稀と言わざるを得ません).

最後に

 OMCももちろんですが,僕個人で(自分で言うのもどうかと思いますが)いま界隈(の特に中高生)に対してそこそこの影響力を持っている自覚があり,慎重に行動する必要があることを理解しています.僕は基本的には,皆さんに数学を楽しくしてほしいと思っているのみですが,熱意が空回りすることが時折あります.
 正直なところ,競技数学というのは,それが「競技」の形をとってしまっているがゆえに抱える問題が少なからずありますが,それは僕にどうこうできる話ではありません(OMCに限っても,僕が運営になったのは後からなので,僕が入らずとも一定の形を今でも保っていたでしょう).僕はあくまで清濁併せ呑んだうえで,良いものにしていきたいと思っています.加えて「数学」とかいうものを扱っているからややこしくなるんです.とにかく,もっとも大切なのは,皆さんそれぞれの気の持ちようです.安易にやるのが一番です(これは無批判ならば良いというのとは完全に違う話です.内部から批判が湧き上がらずのほほんとしているコンテンツが最も不健全です).

 来年も安易に楽しんでください.ただし,現役の人はまずはJMO/JJMO頑張ってください.予選落ちはとても悲しいです.よいお年を~


追記 数学の問題をどうテストしていくべきかという現実的なノウハウに関して,また機を改めて書いてみるかもしれません.